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手をつなぐ、 ということ。

Fukushima × Oodaira
福島哲夫先生 大平一枝さん スペシャル対談
誰かと触れ合った手のぬくもりから、確かに私たちは大切な何かを得ている気がします。
でも、どうして人は手をつなぐのでしょう?つなぐのは手だけじゃないとすれば、何でしょう?
そんな素朴な疑問をテーマに、臨床心理学者である福島哲夫先生と、
人の絆をテーマに取材執筆活動を続ける大平一枝さんの対談をお届けします。
大平一枝 大平一枝
作家、エッセイスト。最新著書『昭和式もめない会話帖』(中央公論新社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『男と女の台所』(平凡社)『あの人の宝物』『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)ほか多数、共著に『母弁』(主婦と生活社)。朝日新聞デジタル「&w」にて『東京の台所』(文・写真)を連載中。

profile

福島哲夫 福島哲夫
大妻女子大学教授(人間関係学科長・心理相談センター所長)、臨床心理士、日本青年期精神療法学会理事、日本心理臨床学会代議員、AEDP(加速化体験力動療法)レベル1セラピスト。学生へ最新の心理学を伝えるだけでなく、自身が開設した成城カウンセリングオフィスで心の問題を抱える人へのケアにも取り組む。
最近、手をつなぎましたか? 最近、手をつなぎましたか?

福島じつは僕、最近手はつないでないです(笑)。昔は娘と当たり前のように手をつないでいましたけど、小学校3年生くらいまで、だったかなぁ。
今はもう高校2年生で。

大平:無理…ですかね。ですよね。

福島:それと同時に妻ともつながなくなったなぁ。

大平:あはは。私じつは、長期のハードなお仕事をご一緒した方と食事をしたときとか、握手したり、手をつなぐことって多いんです。

福島:それは男女の区別なく?

大平:そうなの。なんでだろうって思い返すに、ひとつのプロジェクトを乗り越え、「お疲れさま」と相手の労をねぎらいたい。そんな気持ちになって、手をつなぐんです。それでね、その相手の方とは、次に会ったときに必ずもっと仲良くなれるんですよ。

福島:僕、大平さんのお話で思い出しました。カウンセリングの最後に、必ず握手をして帰る方がいます。それは、「次回会うときまで、頑張ろうね」という合図。

大平:先生は心の問題を抱えている方たちのカウンセラーでもいらっしゃるんですよね。手をつなぐことをカウンセリングにいかされるということは、あるんですか?

福島:それはないですね。手をつなぐと、気持ちが近くなりすぎて、必要以上にクライアントがカウンセラーに頼りたくなりがちなので。

大平:依存したくなるんですね。

信頼する誰かと心の手をつないで

福島:最近、心理学の世界で「手をつなぐと痛みが和らぐ」という実験結果が発表されました。被験者の上腕に痛みの刺激を与える。恋人と手をつないでいる・いない場合で、痛みの変化を、呼吸・心拍・脳波などから測定します。すると、予想どおり、一人で痛みに耐えるより、パートナーが近くにいる、さらにパートナーと手をつないだ状態のほうが、痛みの感覚が低かった。また、パートナー側の想像上の痛みの大きさも、タッチしているときのほうが下がっていました。

大平:信頼している相手に触れるということには、そんな力があるんですね。

福島:そうです。おもしろいですよね。

大平:小さい子どもが転んだときに、親が触りながら「痛いの痛いの、飛んでいけ〜」と言うのも気休めではなく根拠があると。

福島:世界各国に、同じようなおまじないがあります。痛い瞬間に誰かとつながることで主観的な痛みが和らぐ経験を何度も重ねるうちに、子ども自身が「カラダは痛いけど大丈夫だ」と、痛みの和らぐ感覚を身に付ける。すると今度は心が傷ついたときにも「つらいのは確かだけど大丈夫だ」と、自分で自分を立て直せるようになる。これをエモーション・レギュレーション、日本語では「感情調整」といいます。

大平:うちの娘が幼い頃、カンの強い子だったんです。泣きじゃくる娘を抱いて背中をさすっていると、だんだん声が小さくなって、最後は寝る。あれは何だったんだろう、背中に特別なツボでもあるのかなってずっと不思議に思っていて。謎が解けました。

福島背中をなでてあげるのも、手をつなぐことも、さらに話をして分かりあうことも、心理学では同じことなんですよ。

大平:ツボではありませんでしたか(笑)。つながる感覚って、人の心を安定させる魔法ですね。その感覚を覚えていけば、心が強くもなる!

福島:「交感神経」と「副交感神経」って、耳にされたことがあるかと思います。今まで話してきた、つながるという行為には、副交感神経が優位になる作用があるんです。副交感神経が優位になると、ゆっくりとリラックスすることができます。人類が、何百万年の歴史の中で作り上げてきたしくみです。

大平:タッチすると、副交感神経が優位になるんですね。

福島:子どもと手をつないでいると、ある日、子どものほうから手を振り切るときがきますね。
人は、手をつながなくなったときに初めて自立し始めるのではないでしょうか。自立しながら子どもは子ども同士のパートナーをつくって、親は親で長く寄り添ってきたパートナーとまた手をつなぐ…という感じに戻っていくのでしょうね。

大平:夫婦が恋人同士のように手をつなぐの、照れ臭い向きもありますが(笑)。

福島:長く連れ添った夫婦は心の手をつないでいるじゃないですか(笑)。

シェアする喜び、もっと身近に

大平:手をつなぐことで心をかよわす生き物って、ほかにいないのでしょうか。

福島:人間だけかと。人間の場合は、サルのように赤ちゃんがしがみつけないので、母親が抱っこするしかない。すると、ほかの仕事があまりできなくなるため、長い長い歴史の中で、お母さんたちは共同で子育てをしてきました。食べ物を仲間と分けあうのも人間の特徴のひとつで、チンパンジーもほとんど分けないそうです。手の空いた人が水を汲んだり薪を拾ったりして、食べ物を分けあう。そこに、人間が持つ喜怒哀楽の感情が深く関わっているというのが、最近、進化心理学という分野で言われていることです。

大平:人は、助け合い、分かち合い、一緒に楽しみながら、シェアしながら生きていく。そのために、つながるんですね。初めて知りました。

福島:自立した人間同士ならば、必ずしも本当に手をつなぐ行為をしなくてもいい。心がつながればいいんです。

大平:ちょっとしたひと言「今日は雨が降りそうだから傘持っていったら?」というのも、手をつないでいることになりますね。大人になると、簡単に手をつなげない代わりに、いろんな心の手のつながり方があるかもしれません。

福島:我が家は、「大丈夫?」と声を掛け合うのを大事にしています。くしゃみをしたり、何かふさいでいるように見えたとき、いろんなときに「大丈夫?」と。

大平:ああ、いい言葉ですね。言葉で手をつないでいらっしゃる。素敵なご夫婦。

福島:いやいや。家族だけじゃなく、親しい友人や恋人、同僚、あるいは犬や猫などのペット…情緒的な結びつきがある特定の相手と、心の手をつなげばいいんです。

大平:私は台所をルポする連載で、いろんなご家庭を訪ね歩いています。痛感するのは、全員で食卓を囲む時間がとれない家庭の、なんと多いことか。「何を食べるかより、皆で囲むこの時間って大事だよ」って思うんです。ずっと全員がベッタリいなくてもいい、出たり入ったりしながら、食卓の周りにいる時間が大事だと。

福島:なるほどその時間、心理学から見ても大事だと思います。

大平:今日お話を伺って、言葉で「手をつなごう!」と誘うのもいいけれど、つながる相手側もそういう気持ちになるために、話を聴いてあげることが大事だと気付きました。

福島:はい。まずはちゃんと目を見て、うなずきながら聴くことが大事です。カウンセラーは、聴くのが8、言うのが2くらい。それ以上に大事なのは、カタチじゃなくて、見て、聴いて、感じること。

大平:感じ取ること、キャッチボールの受け方が大事なんですね。

福島:まずは聴かせていただく。言葉の調子や間合いも含めて感じ取って、できるだけ同じ地平に立って聴く。相づちは、大事なところだけ繰り返してあげると、相手は伝わった実感が持てるので、興奮している人も落ち着き始めます。

大平共感を持って聴く。できるかな。うん、やってみます。

福島:僕自身も家族とはなかなか…です(笑)。お互い様の気持ちで、やり続けていきましょう。

対談を終えて 対談を終えて
手が、心が、つなぐもの。
大平一枝
穏やかな口調、心の奧に届くような優しい声。福島先生による、心理学を分かりやすくかみくだいたお話で、なんとなく抱いていた人生の謎がひとつ解けました。
なぜ人は手をつなぐのか。手をつなぐとどんな効果があるのか。また、たとえ手をつながなくとも、いろんな代替行為があるという発見も。
 とりわけ印象的だったのは、福島先生自身のご家庭のこと。奥様に、「たいしたことがなくても、相手にいつもと違うちょっとした何かがあったら、“大丈夫?“と声を掛けてほしい」と言われ、実践していたら互いに優しくなっていったと。くしゃみをしたら「大丈夫?」、ため息をきいたら「大丈夫?」。ひとつ屋根の下で暮らす人と、そう言い合ったら、どれだけ気持ちが丸く、ほっと安らぐことでしょう。自分を気にしてくれている。それが嬉しい。まさに心で手をつなぐようなもの。
 手をつなぐということは、相手を思い、心を寄せる行為の象徴なのだと改めて理解できました。共同で助け合い、喜びも苦しみもシェアしながら進化してきた人類にとって、手をつなぐことは喜怒哀楽の感情に、密接に関わり合っている。とすれば、やっぱり私も身近にいる大切な人たちと、心で手をつなぎ、ともに生きる喜びを味わいたい。悲しみや苦しみは減らしあいたいと、素直に思いました。まずは「大丈夫?」から始めてみようかな。

2018年02月掲載

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